VOSTOK Journal

中央回廊

日本から中央アジア、そしてその先の欧州へ。
いま、その物流の地図が大きく塗り替えられようとしています。

これまでアジアと欧州を結ぶ陸路の主役は、いわゆる「北回廊」でした。
中国からカザフスタン、ロシア、ベラルーシを経て欧州へ向かう鉄道ルートで、海上輸送の半分ほどの日数で貨物を運べることから、この十年で急速に発展してきました。

しかし2022年以降、ロシアを経由する物流は制裁や保険上の課題を抱え、多くの企業が新たなルートを模索するようになります。
さらに本年は、中東情勢の悪化によってホルムズ海峡を巡るリスクも高まり、物流の流れは一気に中央回廊へと向かっています。

中央回廊(ミドル・コリドー/TITR)は、中国からカザフスタンを経てカスピ海を渡り、アゼルバイジャン、ジョージア、トルコを通って欧州へ至る物流ルートです。
カスピ海をフェリーで横断するという少し珍しい構成ですが、その存在感は年々大きくなっています。

通過貨物量は2021年の約60万トンから、2025年には約450万トンへと7倍以上に拡大し、今年第1四半期のコンテナ列車本数も前年比34.4%増となりました。
カザフスタン、アゼルバイジャン、ジョージアの3か国も、統一運賃やワンウィンドウ通関、共同物流会社の設立などを進め、それぞれの国で分かれていた物流の仕組みを、一つの回廊として機能させようとしています。

日本にとって、このルートが持つ意味は決して小さくありません。
ホルムズ海峡、スエズ運河、そして北回廊への依存を分散する、新たな経済安全保障の選択肢だからです。
実際、日本国内で重要鉱物として指定される32種類のうち、22種類はカザフスタンで産出されるとも言われています。
昨年12月の「中央アジア+日本」首脳会合で示された、今後5年間で約3兆円規模の協力方針も、いままさに実行段階へ入りつつあります。

私自身、中央アジアと日本との物流に日々携わっていますが、現場にはまだ多くの課題があります。
インフラや制度、コストなどの問題から、取引を断念せざるを得ないケースも少なくありません。
それでも、この数年で物流環境は着実に改善され、輸送時間も以前と比べて短縮されてきました。
この流れは、これからさらに加速していくでしょう。

物流は、人と人、企業と企業、そして国と国を結びます。
かつてのシルクロードが商人たちによって築かれた道だとすれば、いま中央回廊で生まれつつあるのは、国家、港湾、鉄道、そして民間企業が力を合わせて築く、新しい時代の交易路なのかもしれません。
私もこの地域に長く関わってきた一人として、現地の皆さまとともに、この新しい道を少しでも太く、そして確かなものにしていけるよう、微力ながら力を尽くしていきたいと思います。